■公務員試験過去問分析(刑法7、未遂)

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■実行の着手(地方上級試験〔1992年〕)

実行の着手については、A、Bのような見解がある。両見解に基づいてア、イについて検討した場合、妥当なのはどれか。

A) 犯意の成立が、その遂行的行動により確定的に認められるときに実行の着手があったとする。

B) 実行の着手時期は、行為の客観面から判断すべきであるとする。

ア) 3歳の子供を利用して財物を窃取させた場合。

イ) 酒を飲むと人に危害を加えることをしっている者が、殺人の意図で被害者を誘って酒を飲み、心神喪失状態となってけがをさせた場合。

1) A、Bいずれによっても、アについては、子供に「盗んでこい」と命じたときに実行の着手があったことになる。

2) Aによれば、アについては、子供が窃取行為を開始したときに未遂となるが、Bからは実行行為の範囲を不当に拡大するとの批判がなされる。

3) Bによれば、アについては、子供に「盗んでこい」と命じたときに実行の着手があったことになるが、この立場を貫くときは、強盗の目的でピストルを持って他人の家に侵入すれば、強盗未遂となる。

4) Aによれば、イにおいて、飲みすぎて眠ってしまった場合、殺人未遂罪が成立する。

5) Bによれば、イにおいて、実行行為と責任能力との同時存在を要求する立場に立つから、けがをさせる行為に着手した時に実行の着手があったとする。

■解説

1) 誤り。A説(主観説)は、犯意が外部的に表明されて認識可能になれば実行の着手を認める。この説は、ア)については命じた段階で犯意が外部に表明されているので実行の着手を肯定する。一方B説(客観説)では、この場合子供は命ぜられただけで客観的なことを何もしていない以上、実行の着手は否定される。西田典之『刑法総論』初版(2006年、弘文堂)277−278頁。

2) 誤り。窃取「行為」の開始時に実行の着手を認めるのは客観説である。一方主観説は、子供に命じた段階で実行の着手を認めるので、子供が命じられた後財物窃取を忘れたような場合でも、窃盗未遂が成立する。これに対しては客観説から「実行行為の範囲を不当に拡大する」、との批判がなされる。前掲西田277−278頁。

3) 誤り。これは客観説ではなく主観説の説明である。前掲西田277−278頁。

4) 正しい。主観説は、殺害の意図で酒を飲んだ段階で実行の着手を認めるからである。

5) 誤り。「同時存在」を要求すれば、けがをさせる行為を実行の着手とすることはできない。けがをさせる段階では心神喪失状態になっているからである。なおこの点については、以下のように学説を整理できる。
客観説は内部で2説に分かれる。まず形式的客観説は、実行の着手を実行「行為」の開始ととらえる。一方実質的客観説は、既遂結果発生の具体的危険が生じたときに実行の着手を認める。そして原因において自由な行為について、前説はここでいう「同時存在」を要求する立場と結びつき、責任がある段階の「行為」を実行行為と解し、この行為(ここでは飲酒行為)を開始すれば実行の着手があるとするが、後説は「同時存在」を厳格には維持せず、けがをさせる行為の開始時こそ「既遂結果発生の具体的危険」が発生したと理解しここに実行の着手を求める。前掲西田265頁以下、278−280頁。

■実行の着手(労働基準監督官試験〔1997年〕)

未遂罪に関する次の記述のうち、判例にてらし、妥当なのはどれか。

1) 特定の人物を殺すことを目的として、致死量の毒物を混入した飲食物を郵送した場合には、郵便物が到着し、それを当該人物が受領した時点で殺人罪の実行の着手が認められる。

2) 保険会社から火災保険金をだまし取ることを目的として、自宅の家屋に失火であるかのように装って放火した場合は、家屋に着火した時点で詐欺罪の実行の着手が認められる。

3) 他人の住居を焼失させる目的で、住居の隣の物置に火を放ち、その火勢に驚き消防署に連絡し、その場から逃げ去った後、消防車が物置の火を消し止めた場合、中止犯が成立する。

4) 強盗罪の予備行為に着手後、現場に到達した時点で、それが悪いことであると気づき自らの意思で中止し、何もせず現場から逃走した場合には、強盗予備罪の中止犯が成立する。

5) 殺人の目的で、通常の致死量が10ccの毒物を7ccで殺害し得ると認識して静脈内に注射した場合には、その量が致死量以下であることから死に至る危険性がないため、不能犯となる。

■解説

1) 正しい。大判大正7年11月16日である。このような間接正犯の着手時期については、利用行為説と被利用行為説の対立がある。利用行為説では、飲食物を郵送した段階で実行の着手を認めるが、被利用行為説では、郵便物の到達、受領段階に実行の着手を認める。判例は後説を採用した。大塚仁『刑法概説(総論)』第3版(1997年、有斐閣)167頁以下。

2) 誤り。火災保険金をだまし取るため家屋に放火した段階では詐欺罪の着手は認められず、保険会社に保険金の支払請求をした段階で着手が認められる(大判昭和7年6月15日)。大塚仁『刑法概説(各論)』第3版(1996年、有斐閣)254頁。

3) 誤り。このように媒介物を利用し目的物に導火させることも放火罪の着手となる(大判明治44年1月24日)。前掲大塚各論370頁。この場合も放火罪の着手が認められるが、消防車によって消火され未遂となった場合、中止犯の成立は如何。このような、行為者自身が結果の防止にあたらないとか、またあたらないとしてもそれと同視できるような事情がない場合は、中止行為とは認めないのが判例である(大判昭和12年6月25日)。前掲大塚総論246頁。

4) 誤り。判例は予備罪の中止犯を認めない(大判大正5年5月4日)。しかしながら、実行の着手後中止した場合は「刑の免除」(刑法43条但書)もあり得ることを考えると、刑の権衡上予備や陰謀の中止についても刑法43条但書の準用を認めるべきとの見解が多い。前掲大塚総論248−249頁。

5) 誤り。犯罪の「手段(手段自体に欠陥がある)」が不能の場合、判例は中止犯の成立を認めない場合が多い(大判大正8年10月28日、最判昭和37年3月23日)。前掲大塚総論258頁。