■公務員試験過去問分析(刑法6、責任)

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■錯誤(国家公務員1種試験〔1991年〕)

事実の錯誤に関する次の記述のうち、妥当なのはどれか。

1) 具体的符合説は、認識した内容と発生した事実が具体的に一致していなければ、故意を認められないとする見解であり、これによれば、Aを殺す意思で発砲したことろ、Aの傍らに立っていたBに命中してBが死亡した場合には、Aに対する殺人未遂罪とBに対する過失致死罪が成立する。

2) 具体的符合説は、認識した内容と発生した事実が具体的に一致していなければ、故意を認められないとする見解であり、これによれば、Aだと思って人を射殺したところ、実はそれはBだった場合には、Aに対する殺人未遂罪とBに対する殺人未遂罪が成立する。

3) 法定的符合説は、認識した内容と発生した事実が同一の構成要件の範囲内で符合していれば、故意を認めるとする見解であり、これによれば、Aを殺す意思で発砲したことろ、AとAの傍らに立っていたBに命中してAが負傷しBが死亡した場合には、Aに対する傷害罪とBに対する殺人既遂罪が成立する。

4) 法定的符合説は、認識した内容と発生した事実が同一の構成要件の範囲内で符合していれば、故意を認めるとする見解であり、これによれば、人を殺す意思で発砲したところ、傍らにいた犬に命中し、その犬が死亡した場合には、殺人未遂罪と器物損壊罪の既遂が成立する。

5) 抽象的符合説は、認識した内容と発生した事実が構成要件を異にしている場合でも、すくなくとも両者のうち、軽い罪の限度では故意犯の成立を認めようとする見解であり、これによれば、飼犬を殺す意思で発砲したところ、傍らに立っていた人に命中し、その人が死亡した場合には、器物損壊罪の既遂と殺人既遂罪が成立する。

■解説

1) 正しい。具体的符合説による、「具体的事実の錯誤」における「方法の錯誤」の説明である。西田典之『刑法総論』初版(2006年、弘文堂)207−208頁。

2) 誤り。具体的符合説は、「具体的事実の錯誤」における「客体の錯誤」について、現に生じたBに対する故意犯の成立を認める。つまりこの場合は、Bに対する殺人既遂罪が成立する(Aに対しては犯罪は成立しない)。なお具体的符合説を徹底すればこのような場合、「A≠B」即ち具体的に一致していないので、Bに対する過失犯が成立するとも考えられるが、このような結論はとられていない。前掲西田205頁。

3) 誤り。法定的符合説は、「具体的事実の錯誤」における「方法の錯誤」について、「およそ人を殺そうとして人を殺した」以上、現に狙った客体Aに対する故意犯とBに対する故意犯の成立を認める(数故意犯説、判例〔昭和53年7月28日〕)。この場合、Aに対する殺人未遂罪、Bに対する殺人既遂罪が成立する。前掲西田206−207頁。

4) 誤り。法定的符合説は、「抽象的事実の錯誤」における「方法の錯誤」について、意図した結果に対する故意犯と意図しなかった結果に対する過失犯の成立を認める。この場合、殺人未遂罪が成立するのみである(過失器物損壊は現行法上不可罰である)。前掲西田218頁以下。

5) 誤り。抽象符合説は、「抽象的事実の錯誤」における「方法の錯誤」について、「軽い罪の限度では故意犯の成立を認め」る見解なのだから、器物損壊罪の既遂と、人の死については過失犯が成立ことになる(なお38条2項参照)。前掲西田218頁。

■錯誤(国家公務員1種試験〔2002年〕)

行為者の認識と実際に発生した結果との間に不一致がある場合を構成要件的事実の錯誤というが、この構成要件的事実の錯誤がある場合、認識と結果との間にどの程度の不一致があれば結果に対する故意の成立が否定されるのかを決定する基準として、大別すると、次の3説がある。

甲説) 行為者が認識した内容と発生した結果とが意思ないし性格の危険性の点で抽象的に符合していれば、故意を阻却しないとする説(抽象的符合説)。

乙説) 行為者が認識した内容と発生した結果とが具体的に符合しない限り、故意を阻却するとする説(具体的符合説)。

丙説) 行為者が認識した内容と発生した結果とが構成要件の範囲内で符合している限り、故意を阻却しないとする説(法定的符合説)。

これらの説に関する次の記述のうち、妥当なのはどれか。なお、行為と実際に発生した結果との間に刑法上の因果関係は存在するが、実際に発生した結果に対する未必の故意はないとする。

1) 乙説及び丙説によれば、Aと思って人を殺したところ、実はBであったという人違いの場合(客体の錯誤)や、Aを殺そうとしてAをねらって発砲したところ、弾がそれて傍らにいたBに命中してBを死亡させた場合(方法の錯誤)のいずれについても、Bに対する殺人の故意が認められる。

2) 乙説及び丙説によれば、Aを殺そうとして、Aをねらって発砲したところ、Aに命中して傷害を負わせ、さらに傍らにいたBにも命中してBを死亡させた場合、AおよびB両名に対する故意の殺人が認められる。

3) Aを殺そうとしてAをねらって発砲し、Aを死亡させたほか、傍らにいたBにも命中させてBをも死亡または負傷させた場合、乙説によれば、Aのみに対する殺人の故意が認められるが、丙説によれば、AおよびB両名に対する故意の殺人が認められる点に争いはない。

4) Aの飼い犬を殺ろそうとしてその犬をねらって発砲したところ、弾がそれて傍らにいたAに命中してAを死亡させた場合、甲説によれば、Aに対する殺人の故意が認められることもあるが、丙説によれば、Aに対する殺人の故意が認められることはない。

5) 判例は、同一構成要件内の錯誤については、丙説を採用しているが、異なる構成要件間の錯誤については、たとえば麻薬所持罪(7年以下の懲役)を犯す意思で覚せい剤所持罪(10年以下の懲役)にあたる事実を実現した場合に、軽い麻薬所持罪の故意の成立を認めていることから、甲説を採用していると言える。

■解説

1) 誤り。具体的符合説、法定的符合説共に、客体の錯誤についてはBに対する故意犯の成立を認めるが、具体的符合説では、方法の錯誤についてはBに対する故意犯の成立を認めない。前掲西田205頁以下。

2) 誤り。この場合両名に対する故意の成立を認めるのは法定的符合説(数故意犯説)であり、具体的符合説によれば、Aに対する殺人未遂罪とBに対する過失致死罪が成立する。前掲西田206頁以下。

3) 誤り。具体的符合説についての説明は正しい。この場合同説によれば、Aに対する故意犯が成立し、Bに対しては過失犯で処理することになる。一方法定的符合説では、AB両名に対する故意犯の成立を認めるのが判例(昭和53年7月28日、数故意犯説)だが、法定的符合説の中でもBのみ故意犯の成立を認める見解(一故意犯説)も存在する。前掲西田206−207頁。

4) 正しい。抽象的符合説の中の宮本説では、この場合罪名としてはAに対する殺人罪の成立を認める(但し科刑は器物損壊罪の範囲内とする。なお一般に抽象符合説については牧野説を理解しておけば足りるだろう)。法定的符合説の説明は正しい。前掲西田218頁。

5) 誤り。判例は異なる構成要件間の錯誤についても法定的符合説を採用している。同説によれば異なる構成要件間の錯誤の場合、意図した犯罪の故意犯と意図しなかった犯罪の過失犯が成立するのが原則だが、判例(最決昭和61年6月9日)は、この場合「両罪の構成要件は実質的に全く重なり合っている」(認識内容と結果の構成要件が符合している)から、軽い麻薬所持罪の故意を認めているのであって、抽象的符合説を採用しているからではない。前掲西田219−220頁。