■2016年行政書士試験・行政法総論第5問

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■朝日訴訟(2016−26)【判例問題】

いわゆる朝日訴訟最高裁判所大法廷判決(最大判昭和42年5月24日民集21巻5号1043頁)の事案は、次のようなものであった。この判決の結論のうち、正しいものはどれか。

原告Xは、以前からA県にある国立B療養所に単身の肺結核患者として入所し、厚生大臣(当時)の設定した生活扶助基準で定められた最高金額である月600円の日用品費の生活扶助と現物による全部給付の給食付医療扶助とを受けていた。ところが、Xが実兄Cから扶養料として毎月1500円の送金を受けるようになったために、所轄のA県のD市社会福祉事務所長は、月額600円の生活扶助を打ち切り、Cからの上記送金額から日用品費を控除した残額900円を医療費の一部としてXに負担させる旨の保護変更決定(以下「本件保護変更決定」という。)をした。これに対してXは、A県知事、ついで厚生大臣に対して不服の申立てを行ったが、いずれにおいても違法はないとして本件保護変更決定が是認されたので、上記600円の基準金額は生活保護法の規定する健康で文化的な最低限度の生活水準を維持するにたりない違法なものであると主張して、取消訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起した。しかしその後、Xは本件訴訟係属中に死亡した。

(参照条文)
生活保護法第59条(当時)
被保護者は、保護を受ける権利を譲り渡すことができない。

1) 保護受給権はX個人に与えられた一身専属の権利であり、他の者にこれを譲渡することはできず、相続の対象にもなりえないが、裁判所は、本件保護変更決定の前提となる生活扶助基準の適法性について判断する必要があるので、本件訴訟は、Xの死亡と同時にその相続人に承継される。

2) 生活保護法の規定に基づきXが国から生活保護を受けるのは、これを保護受給権と称されることがあるとしても、その法的性格は国の社会政策の実施に伴う反射的利益というべきであり、Xの死亡後においてそれが相続の対象となることもないから、本件訴訟は、Xの死亡と同時に終了する。

3) Xの生存中の扶助ですでに遅滞しているものの給付を求める権利は、医療扶助についてはもちろん、金銭給付を内容とする生活扶助も、もっぱらXの最低限度の生活の需要を満たすことを目的とするものであるから、相続の対象となりえず、本件訴訟は、Xの死亡と同時に終了する。

4) 本件保護変更決定によってXは医療費の一部自己負担をせざるをえなくなるが、本件保護変更決定が違法であるとすれば、かかる負担についてXは国に対して不当利得返還請求権を有することになるから、当該請求権は相続の対象となり、本件訴訟は、Xの死亡と同時にその相続人に承継される。

5) 生活保護法の規定に基づき被保護者が国から生活保護を受けるのは法的権利であり、同法が、被保護者は、保護を受ける権利を譲り渡すことができないと規定するのは、被保護者の生存中についての定めであるから、Xの保護請求権は相続の対象となり、本件訴訟は、Xの死亡と同時にその相続人に承継される。

■解説

【難易度】やや難しい。

朝日訴訟の結論(主文)を知っているだけで、簡単に肢を2つまで絞ることができたという問題である。その点で本問は、実は易しい問題であった。

この事件では、生活保護を受給していた原告が上告中で死亡し、養子夫妻が訴訟の承継を主張したが、これに対し最高裁は、「生活保護受給権は一身専属的な権利であるから、原告死亡により訴訟は終了した」という結論を出した。よく朝日訴訟の説明において出てくるプログラム規定説等の判示は、実は主文を導き出すには直接必要のない傍論に近いものであった(「なお、念のため」という判示に注意)。

1)、4)、5)は結論が生活保護受給権の「承継を認めるもの」であるから誤り。問題は2)か3)のどちらが正解になるかということだが、2)は生活保護受給権を「反射的利益」としている点で誤り。最高裁は、生活保護受給権を反射的利益ではなく「法的権利」としているからである。生存権の法的権利性を認めないプログラム規定説を前提にしても、そのプログラムを具体化した生活保護受給権の法的権利性は肯定し得る。よって正解は3)である。

本問については、塩野宏『行政法U』第6版(2019年、有斐閣)154頁、傍論について芦部信喜(高橋和之補訂)『憲法』第5版(2011年、岩波書店)380−381頁。