■2010年行政書士試験・行政法総論

行政書士合格講座行政書士試験の過去問分析>2010年行政書士試験・行政法総論

このサイトについて・プライバシーポリシー 憲法学の窓・公務員試験対策室 Site Map

■行政上の義務履行確保手段(2010−8)【理論問題】

A市は、風俗営業のための建築物について、条例で独白の規制基準を設けることとし、当該基準に違反する建築物の建築工事については市長が中止命令を発しうることとした。この命令の実効性を担保するための手段を条例で定める場合、法令に照らし、疑義の余地なく設けることのできるものは、次の記述のうちどれか。

1) 当該建築物の除却について、法律よりも簡易な手続で代執行を実施する旨の定め。

2) 中止命令の対象となった建築物が条例違反の建築物であることを公表する旨の定め。

3) 中止命令を受けたにもかかわらず建築工事を続行する事業者に対して、工事を中止するまでの間、1日について5万円の過料を科す旨の定め。

4) 市の職員が当該建築物の敷地を封鎖して、建築資材の搬入を中止させる旨の定め。

5) 当該建築物により営業を行う事業者に対して1千万円以下の罰金を科す旨の定め。

■解説

【難易度】難。安直に解説すると、最もドラスティックでない制度を選べば良い問題であったということになろう。

1) 設けることはできない。行政代執行法1条の「別に法律で」の「法律」には、条例を含まないと解されている。よって、2条で認められている代執行を除き、条例で新たな代執行制度を設けることはできない。塩野宏『行政法T』第5版増補(2009年、有斐閣)230−231頁参照、櫻井敬子−橋本博之『行政法』第5版(2016年、弘文堂)171頁。

2) 設けることができる。公表は、条例により定めることができると解されている。前掲塩野242頁、櫻井他179頁以下。

3) 設けることはできない。これは執行罰を定めるものであるが、執行罰についても条例で定めることはできないと解されている。前掲塩野238頁。

4) 設けることはできない。これは直接強制を定めるものであるが、直接強制の根拠を条例によっておくことはできないと解されている。前掲塩野236頁。

5) 設けることはできない。条例中に罰金を科する定めを設けることができるが、それは「100万円以下」の罰金でなければならない(地方自治法14条3項)。

■通達(2010−9)【理論問題】

通達に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

1) 通達は、法律の根拠なく発令・改廃することができるが、それに際しては、官報による公示や関係機関の事務所における備付けその他適当な方法により国民に対して公にしなければならない。

2) 通達は、国民の法的地位に影響を与えるものではないが、特段の理由もなく通達に反する処分については、平等原則に違反するものとして、相手方たる国民との関係においても違法とされる余地がある。

3) 通達は、国民の法的地位に影響を与えるものではないから、その発令・改廃行為は、行政事件訴訟法3条1項の「公権力の行使」および国家賠償法1条1項の「公権力の行使」にはあたらない。

4) 通達によって示された法令解釈の違法性が訴訟において問題となったとき、裁判所は、行政庁の第一次的判断権の尊重の原則により、それが重大明白に誤りでない限り、当該通達で示された法令解釈に拘束される。

5) 通達は、上級行政機関が下級行政機関に対して発するものであり、上司たる公務員が部下である公務員に発する職務命令と別のものであるから、通達に反する行為を行ったことと当該行為を行った公務員の職務上の義務違反との間には、直接の関係はない

■解説

【難易度】易しい。

1) 誤り。法律の根拠なく、通達は発令、改廃できるがそれにつき公示は不要である。通達は、一般国民を拘束する外部的な規範ではないからである。芝池義一『行政法総論講義』第4版(2001年、有斐閣)119頁参照。

2) 正しい。塩野宏『行政法T』第5版(2009年、有斐閣)105頁以下参照。

3) 誤り。行政事件訴訟法についての記述は正しいが(最判昭和43年12月24日。塩野宏『行政法U』第4版〔2005年、有斐閣〕98頁)、判例は、国家賠償法1条の「公権力の行使」について広義説を採用しているので、通達の発令、改廃行為も「公権力の行使」に含まれることになろう。

4) 誤り。頻出の肢である(パチンコ球遊器事件〔最判昭和33年3月28日〕)。行政措置の違法判断において通達は基準とならず、裁判所は、通達による法令解釈とは関係なく自己の法令解釈をなし得る。前掲芝池100頁。

5) 誤り。通達と職務命令が別物という説明は正しいが、通達違反行為については懲戒権の行使が認められているので、通達違反行為と職務義務違反に直接の関係はないとは言えない。前掲芝池99頁以下参照。

■行政上の法律関係(2010−10)【判例問題】

行政上の法関係に対する民事法の適用についての次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、正しいものはどれか。

1) 自作農創設特別措置法に基づく農地買収処分は、大量の事務処理の便宜上、登記簿の記載に沿って買収計画を立てることが是認され、またこの場合、民法の対抗要件の規定が適用されるので、仮に当該買収処分の対象となる土地の登記簿上の農地所有者が真実の所有者でないとしても、真実の所有者は当該処分を受忍しなければならない。

2) 公営住宅の使用関係については、公営住宅法およびこれに基づく条例が特別法として民法および借家法(事件当時)に優先して適用されるが、公営住宅法および条例に特別の定めがない限り、原則として一般法である民法および借家法の適用があり、その契約関係を規律するについては、信頼関係の法理の適用がある。

3) 普通地方公共団体が当該地方公共団体の関連団体と契約を結ぶ場合、当該地方公共団体を代表するのは長であり、また相手方である団体の代表が当該地方公共団体の長であるとしても、そのような契約の締結は、いわば行政内部における機関相互間の行為と同視すべきものであるから、民法が定める双方代理の禁止の規定の適用または類推適用はない。

4) 租税滞納処分における国と相手方との関係は、一般統治権に基づく権力関係であるから、民法の対抗要件の規定は適用されず、したがって、仮に滞納処分の対象となる土地の登記簿上の所有者が真の所有者ではないことを、所轄税務署においてたまたま把握していたとしても、滞納処分を行うに何ら妨げとなるものではない。

5) 農地買収処分によって、国が対象となった土地の所有権を取得したのち、第三者が相続により当該土地を取得したとして移転登記を済ませたとしても、買収処分による所有権取得について民法の対抗要件の規定は適用されないから、当該第三者は、当該土地所有権の取得を国に対して対抗することはできない。

■解説

【難易度】易しい。有名な判例からの出題であり、正解しておきたい。

1) 誤り。民法177条は、通常の民事上の土地売買に適用されるものであり、これと異なる性格を有する自作農創設特別措置法の農地買収処分(公法関係)については、同条は適用されないというのが判例である(最大判昭和28年2月18日)。塩野宏『行政法T』第5版増補(2009年、有斐閣)30頁、前掲櫻井他28頁。

2) 正しい。最判昭和59年12月13日である。この判決によれば、公営住宅の利用関係は、私人間の家屋賃貸借契約と異なるところはなく、公営住宅法上の明渡請求事由が存在しても、信頼関係が破壊されていないという特段事情がある場合、明渡請求ができないということになる。前掲芝池33頁、櫻井他30頁。

3) 誤り。最判平成16年7月13日。普通地方公共団体の長が、当該普通地方公共団体を代表し締結する契約については、108条が類推適用される。

4) 誤り。最判昭和31年4月24日である。租税滞納処分における差押は、民事上の強制執行と類似性を有し、滞納処分における国の地位を民事上の強制執行における差押債権者の地位に対応させて考えると、滞納処分における差押には177条の適用がある、ということになる。前掲芝池30頁。

5) 誤り。最判昭和39年11月19日。この場合は177条の適用があるとするのが判例である。前掲芝池31頁。なお5)と1)の判例が矛盾するようにも思われるが、大雑把に言うと1)は「誰から農地買収をすべきか」が問題になっているのに対し、5)は「農地買収をした」が問題となっており、事案が異なるので結論も異なるのは当然とも言えよう。